岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

今泉力哉監督作品《その1》

2020年03月03日

mellow

©2020「mellow」製作委員会

【出演】田中圭、岡崎紗絵、志田彩良、松木エレナ、白鳥玉季、山下健二郎、SUMIRE、ともさかりえ、小市慢太郎
【監督・脚本】今泉力哉

花を愛する花屋の生活の風景や息づかい

 昨年度の岐阜新聞映画部ベスト・テンで、日本映画ベストワンに選ばれた『愛がなんだ』の今泉力哉監督の新作が、新年早々、2本続けて公開されている。他にも公開予定作品が控え、製作が動き出している作品も複数あるという。今や最も忙しい映画監督かも知れない。

 『mellow』は外観からではそれと見分けのつかないオシャレな花屋。店主の夏目誠一(田中圭)は花をこよなく愛し、花屋を天職と自認している。冒頭、店で作業する誠一の姿を淡々と映す。花に接する優しさでこれから始まる物語の色を見事に予告する。

 脚本は監督自身のオリジナルで、「花屋の男とラーメン屋の女の話」という簡単なアイデアが出発点という。誠一が関わる人達と繰り広げられる出来事を紡ぐ構成で、それぞれのエピソードは、ささやかなという印象だが、花を定期的に配達して、家に飾り付ける契約をしている夫婦とのエピソードは、今泉映画らしい奇想なシュールさが際立つ。

 メインとなるのは、最初の構想にあった"ラーメン屋の女"木帆(岡崎紗絵)とのくだり。父親の急逝を受けて店を引き継いだが、繁盛しているとは言い難く、父親の味の再現にも苦慮している。誠一は木帆の父親に見守りと遺言の手紙を託されている。この関係性に誠一の人間性を読み取ることもできるが、彼はまた、木帆の想いを感じ取るほどに敏感な男でないことがもどかしい。これも下心のない純な優しさなのだろうか?

 それにしても、誠一=田中圭は、みんなから好かれる。姪っ子に、女子中学生に、人妻に…おっさんたちの求愛に驚愕しながらも、誠意を込めて対応してしまう、あの問題作のパロディかと思えなくもない。それでも憎めないのが、田中圭の稀代の持ち味である。

 今泉映画はパズルの組立てで、物語のパーツは様々だが、次第に組み立てられて完成する。解釈の多様性を含み、綻びや脆さがあるのも許せてしまう…そんな映画が『mellow』。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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