岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

圧倒的な存在感で蘇る寅さん

2020年02月25日

男はつらいよ お帰り 寅さん

©2019 松竹株式会社

【出演】渥美清/倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅岡ルリ子、美保純、佐藤蛾次郎、桜田ひより、北山雅康、カンニング竹山、濱田マリ、出川哲朗、松野太紀、林家たま平、立川志らく、小林稔侍、笹野高史、橋爪功
【監督・原作】山田洋次

思いの丈で違いはあっても堪らないタイムスリップ感で愉しむ

 『男はつらいよ』の第1作は1969(昭和44)年の8月27日に公開された。その原型は前年の68年から放送されたテレビドラマで、設定などで映画版とは異なる点がいくつかある。渥美清が演じる車寅次郎は、当時ヒットしていたヤクザ映画のパロディ=喜劇として企画されたと言う。映画はヒットし、ドル箱としてシリーズ化されることになり、95(平成7)年に公開された第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』まで続いた。次作の企画中に渥美清が死去したことにより、これが最終作となった。

 我々の世代は、第1作が公開された当時はまだ小学生で、人情とか情緒とかを理解するには、喜劇でありながらも些かハードルが高く、興味の範疇外の存在であった。『男はつらいよ』を初めて劇場で観た記憶ははっきりしない。当時は、お盆と正月のプログラムで2本立て興行だったから、併映作品が何であったのかというアプローチの仕方が、記憶を手繰り寄せる手段となってくれる。

 かつて、名古屋の駅前には松竹座という松竹映画の直営館があった。毎日ビルと豊田ビルが並んで建っていたのが、現在、ミッドランドシアターが入った高層ビルで、松竹座は毎日ビルの地下に入口があった。入口のあった地下1階は指定席で、一般席はさらに下層階にあった。上層階が指定席というのは、当時はいくつかあって、同じ毎日ビルにあった毎日ホール大劇場、先先代のミリオン座もそういう作りだった。

 その松竹座での『男はつらいよ』初体験は、1976年12月25日に初日を迎えた、第18作『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』だったと思う。マドンナは檀ふみが演じ、満男の小学校の担任の先生という役だった。併映は郷ひろみ主演の『おとうと』(山根成之監督)で、浅茅陽子が姉を演じている。年を跨いだ正月興行の映画館の雰囲気は独特なものがあった。現在のシネコンはポップコーンの香り、昔の映画館はスルメや酢昆布の匂い。

 『男はつらいよ お帰り 寅さん』は、満男を中心にした42作目の『ぼくの伯父さん』(89年)からの流れを踏襲しているが、過去の幾つかの名場面がコラージュされている。また、時の流れは不在を明らかにする。帝釈天の御前様は代替わりし、タコ社長は思い出の人。おいちゃんおばちゃんは仏壇に眠る。最大の不在は寅さんなのだが、スクリーンの寅さんは生き続けている。思いの丈の違いは致し方ないが、個人的には涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったと告白しなければならない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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