岐阜新聞 映画部

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ヒトラーも固執した美術品たちの運命を見つめる美術史ドキュメンタリー

2019年06月19日

ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ

©2018 – 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

【出演】トニ・セルヴィッロ
【監督】クラウディオ・ポリ

芸術は、時としてポリティカルなのである。

 ロンドンの大英博物館は、またの名を「泥棒博物館」と揶揄されるほどに、旧植民地から無断で持ち去った美術品を展示している。パリのルーブル美術館にも、ナポレオン1世が略奪してきた美術品が収蔵されている。優れた美術品を所有する事は権威の象徴であり、虚栄心を満たすための重要なアイテムとなっている。

 本作は若い頃に画家を目指していたヒトラーが、何故美術品に固執し、それらをどのような不当な方法で収奪していったのか、ドイツ敗戦後に奪われた美術品はどんな運命をたどったのか、闇に消えた美術品をどのように探し出すのかに迫った美術史ドキュメンタリーである。

 自分には芸術家の才があり芸術に理解があると思っている輩が独裁者になると、芸術にとっては不幸極まりない事になってくる。まずは、独裁者がご丁寧にいい芸術(写実的で分かりやすい古風な作品)と悪い芸術(抽象的で退廃的な作品。特にユダヤ人が描いたもの)に分けて下さる。ヒトラーはそれを「大ドイツ芸術展」と「退廃芸術展」で国民に示す。いま見れば笑うしかないのだが、これを大真面目にやっていたとは恐ろしい。

 収奪も狡猾である。お抱えの画商を通して、ユダヤ人の実業家などから表向きは合法的に買い取る。ただし、狙った獲物は一切合切だった上、価格は二束三文だ。何ら略奪と変わらないが、一応取引している事になっているのが汚すぎる。

 映画は、奪われた美術品を発見し、元の所有者に戻す専門家たちの証言が生々しく語られる。中でも、2012年に時価10億ユーロ相当の美術品が発見された「グルリット事件」の史実は、劇映画のような顛末で、大いに興奮させられる。

 スペイン内戦でドイツ軍に空爆された街「ゲルニカ」を描いたピカソ(生涯フランス共産党員だった)は言う。「無関心は許されない。芸術家はこの世の悲しみ、喜びに敏感な政治家であるべきだ」。芸術は、時としてポリティカルなのである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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