岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

70年前と今とが繋がる、少々難解な実験映画

2019年02月16日

未来を乗り換えた男

© 2018 SCHRAMM FILM / NEON / ZDF / ARTE / ARTE France Cinéma

【出演】フランツ・ロゴフスキ、パウラ・ベーア
【監督・脚本】クリスティアン・ペッツォルト

無関心や見ないようにする恐ろしさを、前衛的手法で示している

 時代は明らかに現代のフランス。その中へ1940年に起こっていたドイツ軍によるフランス侵攻と、ファシズムによるユダヤ人やコミュニストなどへの迫害を放り込み、時代考証を一切せずに描いた本作は、難民排斥問題などで70年前と今とが繋がる、クリスティアン・ペッツォルト監督による少々難解な実験映画となった。

 映画の舞台は、現代のパリとマルセイユ。ドイツから逃れてきた違法滞在者の中に混じる主人公ゲオルク(フランツ・ロゴフスキ)は、自殺した亡命作家ヴァイデルの原稿を手に入れる。彼がなぜドイツから逃れてきたのか分からないが、物語が動き出す。

 彼は瀕死の同志と一緒に貨物列車に乗ってマルセイユまで行く。それまでゲオルクが語っていたナレーションが、いつの間にか三人称に代わってしまったり、突然身の上話を話し出す怪しげな人々がいたり、そもそも現代が舞台という事か、追われる違法滞在者以外は戦争前夜の緊迫した様子は見られない。

 状況を理解するのに面食らう事しばしばであるが、監督の狙いは、自分以外のことに無関心であったり、見ないようにしている事の恐ろしさを、前衛的手法を使って示しているのだと察する。

 監督は「いま」を描くにあたって、現代では当たり前となった2つの要素をあえて省いている。それは通信手段としての携帯電話と、移動手段としての航空機である。連絡手段は固定電話であるし、逃げるのは数週間に1度出航の船である。時代の状況が70年前と今とが例え似通っていたとしても、通信・移動の飛躍的発展がファシズムなどの絶対的権力に対抗できる武器となるのだと、それを省くことで分かってくる。

 偶然からヴァイデルになりすましたゲオルクと、ヴァイデルを探し続ける妻マリー(パウラ・ベーア)との交錯はサスペンスフルであり、難解なこの映画に潤いを与えている。ラスト、窓の外を通り過ぎるマリーは、現実か幻想か?

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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