岐阜新聞 映画部

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名も無き男エッガーの生涯を追った一代記

2024年08月26日

ある一生

©2023 EPO Film Wien/ TOBIS Filmproduktion München

【出演】シュテファン・ゴルスキー、アウグスト・ツィルナー、アンドレアス・ルスト、ユリア・フランツ・リヒター
【監督】ハンス・シュタインビッヒラー

どんな過酷な境遇でも常に前を向いて生きていこう

『ある一生』は、美しいドイツアルプスの山で生きる、名も無き男エッガーの生涯を追った一代記だ。子どもの頃から過酷な人生がスタートし、青春時代には戦争があり、身内の不幸な死も経験するという、信じられないほどの試練の連続である。

私には耐えられない人生だが、彼は決して負けない。歯を食いしばって生き、苦難の中にも笑顔がある。

辛い運命を恨んで自暴自棄にはならず、与えられた運命の中でささやかな幸せを噛みしめる。しかし理不尽な仕打ちをしてきたサディストの叔父には、青年になってから決然と拒絶をし、決別する。

低賃金の山の仕事に従事し良き伴侶も得るが、自然破壊が原因の雪崩で家もろとも妻も失ってしまう。嘆く間も無く徴兵されてロシア戦線に赴くが、ソ連軍の捕虜となり艱難辛苦の捕虜生活となってしまう。しかし死にはしないし恨みもしない。

彼は流れには身を任せ自然には逆らわないが、ここぞという時には自分の判断ができる男だ。生き方のお手本である。

エッガーを見ていると、宮沢賢治の詩が思い浮かぶ。

「雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫な体を持ち 欲はなく 決していからず いつも静かに笑っている ・・・・・・ みんなにでくのぼうと呼ばれ 褒められもせず 苦にもされず そういう者に 私はなりたい」

現代人は「夢を持て、ゴールと期日を決めて着実に道のりを歩め」という生き方が奨励されたり、「社会で活躍できないことへの恐れ」や「個性的でユニークな人生を歩めないことへの不安」などを抱えているような気がする。

エッガーを見ていると不安を先取りすることはなく、小さな幸せを噛みしめながら生きている。みならいたい。

ラスト、アポロ11号の月面着陸を見ていた直後、彼はバスに乗り、思い出の地を目指す。そこが終焉の地なのだ。

どんな過酷な境遇でも常に前を向いて生きていこうという映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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