岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

嘘から動き出す偽装家族の物語

2024年08月06日

かくしごと

©2024「かくしごと」製作委員会

【出演】杏、中須翔真、佐津川愛美、酒向芳、木竜麻生、和田聰宏、丸山智己、河井青葉、安藤政信/奥田瑛二
【脚本・監督】関根光才

狂気を日常が覆い隠す尊い瞬間

嘘とかくしごとは違うのか?

絵本作家の千紗子は、永く疎遠だった父親の孝蔵が認知症を発症したことを知り、仕方なく介護をするため故郷に帰ることになる。

父と娘には深い溝があったはずだったが、千紗子のこともわからなくなってしまった父との間には、距離の溝はなくなったが、見えているのに、決して繋がることのない絶望的な新たな距離が存在する。その関係性に呆然とするしかない。

ある日、千紗子は交通事故で記憶を失くした少年を救ける。連れ帰った少年の身体には、明らかな虐待の傷痕があった。

千紗子は少年を匿う決意を固め、その為に自分の子どもとして暮らす方法を選択する。

認知症により、繋がりが遠ざかる父と娘、そこに血の繋がりのない子どもが加わる、偽装の家族は、ぎこちないものの、次第に心をかよわせるまでになるのだが…。

千紗子を演じるのは杏。彼女がこれまでのキャリアで度々演じてきた役柄、意思を貫き通す "強い" 女性像のイメージ=個性を存分に発揮している。加えて、倫理に揺らぎながらも、母性の発露を抑えられない繊細な表現も素晴らしい。

父・孝蔵は奥田瑛二が、憑依を思わせる表情や動作でリアルに演じているが、ありがちになる過剰さも的確に抑制されている。

監督、脚本は本作が長編3作目(内1作はドキュメンタリー)になる関根光才で、CMやミュージック・ビデオで育んだ、映像作家らしい切取り方と、役者の演技をじっくりと活かす落ち着いた演出を見せる。

原作は近未来SFから本格ミステリーまでを書き分けている北園浩二が、2011年に発表した小説「嘘」で、あえて分類するならヒューマンミステリー。

人がやむなく抱え込む "罪" それ故についてしまう "嘘" というテーマは重く辛いが、時に現れかける疑問符も、明瞭で無理のない展開で物語に引き込まれる。演技アンサンブルと演出技が上手く融合した作品である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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