岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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ナチスの蛮行に対する個人的な復讐劇

2024年08月06日

フィリップ

©TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

【出演】エリック・クルム・ジュニア、ヴィクトル・ムトゥレ、カロリーネ・ハルティヒ、ゾーイ・シュトラウプ、サンドラ・ドルジマルスカ
【監督】ミハウ・クフィェチンスキ

次々に口説き落とし、次々にベッドインする

フィリップ(エリック・クルム・ジュニア)は、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系のユダヤ人だ。映画の冒頭、ダンス発表会中に、恋人サラと家族や親戚を、何の前触れもなく目の前でナチスにより射殺されてしまう。こんなことが国家権力で普通に行われていたのだ。

映画の構図は、ナチスによるこの理不尽な行為に対する個人的な復讐劇である。しかし内容は、ナチスが行った歴史的蛮行を糾弾するよりも、フィリップの内面的葛藤に重点がおかれており、むしろ官能的な映画となっている。

惨劇の2年後フィリップは、フランクフルトの高級ホテルで給仕の仕事をしている。ユダヤ人の出自は隠しフランス人として雇われており、お酒を飲み、美味しいものを食べ、ドイツ人の支配人のコーヒーには外国人のみんなで唾を吐き、それなりに楽しんでいる優秀なウェイターだ。

さてフィリップの復讐は、戦場に行った夫不在のドイツ人妻たちを次々に口説き落とし、次々にベッドインする。「娼婦にして、その後捨てる」というのが彼なりの復讐なのだ。そのためかどうか、彼は女性とセックスはしてもキスはしない。

また当時ドイツには「ドイツ人女性が外国人男性と関係を持った場合、髪を切られる」という法律があり、ばれたら男は処刑されるというリスクもあったが、関係を持った女性を脅すことも出来たのだ。

そんな中、プールサイドで本を読んでいた知的で美しいドイツ人女性リザ(カロリーネ・ハルティヒ)と出会う。最初はいつものように「娼婦にさせる」と言っていたが、だんだん本気になってくる。というのが映画の骨子だ。

ナチスものの異色作であるが、これが実話というのが面白い。いい男だと、こんな復讐もありなのだ。

 8月のCINEXは、『フィリップ』に加え『関心領域』と『ONE LIFE ~奇跡が繋いだ6000の命~』のナチスものが重なる。涼しい映画館でナチス映画を楽しもう。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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